【aspara】雪上散歩で自然の驚異を見聞きしてきた | 北軽井沢ひろば

北軽井沢ひろば
雪上散歩で自然の脅威を見聞きしてきた

【aspara】雪上散歩で自然の驚異を見聞きしてきた その1

2010.01.29更新
 高崎市のほうから二度上峠のてっぺんに出ますと、きゅうに景色がひらけ、まるでヨーロッパの山国のような北軽井沢の高原を見下ろすことができます。
 北軽井沢の市街へ下りていくと、あれほど広々していた高原がどこかへいってしまったような印象ですが、峠から見える高原は、ゴルフ場でなければ、だいたいが浅間牧場です。2010年1月23日、静けさに満ちた浅間牧場の高原を、「浅間高原スノーシュー天国 aspara」の堀江さんの案内で歩いてきました。
スノウーシュー

スノーシューとは

 スノーシューとは雪の上を歩く西洋版カンジキです。
 こんな感じで装着します。
スノウーシュー
 ご覧の通り縦に長く、カカトのほうにも張り出しています。足の甲とカカトをベルトでくくって装着しますが、カカトはスノーシューの板には固定されません。カカトが自由になることでつま先への体重移動が容易になり、また足を高く上げる必要もなくなります。わたしの試したところでは、カカトを引きずる感じのほうが歩きやすいように思えました。
 裏には金属製の歯があります。つま先のほうへ体重をかけると、この歯で傾斜の昇り降りが簡単にできます。
 重さはないといっていいくらい軽量。
 やや脚を開き気味、「大きめのスリッパをはいている感覚」で歩行します。30分ほどで慣れると思います。
やどりぎ

木の上に根を張る生き方──ヤドリギの方針

 準備運動をすませ、堀江さんに教えてもらいながらスノーシューを装着し、いよいよ出発です。

 堀江さんは千葉県出身。
 七年ほど前から移住なさって、今は北軽井沢でネイチャーガイドをしてらっしゃいます。
 健康的な肌色のナイスガイで、北軽井沢の自然に深い興味と敬愛をいだいておられます。冬だろうが夏だろうが人跡未踏の森の中を踏破する体力の持ち主で、この日も私はストック以外手ぶらでしたが、堀江さんはリュックを背負っていました。

 スノーシューでの歩き方を教わりながら歩き出してまもなく、
「あの木、わかります?」
 と、堀江さんが一本の木を指さします。
 どこにでもありそうな木ですが、名前を知らないので首をかしげていると、
「いいえ、あれです」
 堀江さんが指さしていたのはヤドリギでした。北軽井沢ではよく見られます。
やどりぎ
「ヤドリギっていうのは面白いやつなんです」
 堀江さんの語るところよると、ヤドリギは秋になると赤い実をつけます。鳥にとって、「赤」という色は鮮やかに見えるそうで、その赤さにひかれるのか、ヒレンジャク、キレンジャクという鳥が好んで実を食べます。
 この赤い実、非常に粘度が高いのです。
 食べた鳥のフンが、糸を引いておしりから垂れ下がるほどです。ヒレンジャク、キレンジャクがあちこちの木へ飛び移るうちに、垂れ下がったフンが別の木に付着します。フンに混じったヤドリギの種が、そのまま宿主の木に根を張って寄生をはじめるわけです。
 ほほう、と感心していると、
「後ろ見てください」
 堀江さんにうながされました。振り返ると、
ヤドリギの群れ

 →この有様。
 群になって宿ってました。
 ずうずうしいことに、ヤドリギにも好みがあります。針葉樹は嫌いで、広葉樹を好むそうです。樹木に根を張って宿主の養分を吸い取るわけですが、宿主の木を枯らしてしまうようなことはありません。
 宿主の木に必要のないミネラルだけを吸うそうです。

 ヤドリギは、広葉樹に軒を借りて、鳥たちを使い走りにしながら、あんな高いところでわれわれを見下ろしているわけです。鳥たちを使うにしても、木ノ実で歓待してから、さまざまな方面へ営業してもらっています。
 鳥、というか動物は、繁殖を除けば、することといったら食べることとフンをすることくらいでしょう。それ以上のことといったら、頼んだってしてくれません。ヤドリギはちゃっかりしています。その実情にあわせて、相手を使役しています。
 少なくともこの方針が北軽井沢で成功を収めているのは間違いないようで、たしかに「面白いやつ」に違いありません。

 ヤドリギのことで笑いながら先へ進むと、カケスが一羽、前方に舞い降りました。
「カケスの好物、知ってます?」
 堀江さんは別の話をしてくれました。

カケス

計算する森の食料庫

 カケスの好物はドングリです。
ドングリ
 なかなか気のきいた鳥で、木ノ実を集めて土のなかに隠す、という芸当をしてのけます。リスやネズミも同じことをするそうです。
 それほどの利口者でありながら、少しばかり間が抜けたところがあって、せっかく集めたドングリの隠し場所をよく忘れてしまいます。土に埋められ、忘れられたドングリがどうなるかはいうまでもありません。新たなミズナラが芽吹きます。

 忘れられなかったドングリは鳥や小動物のエサになります。特にネズミはドングリが大好物、実の部分はあらかた食べてしまいますが、そのネズミたちが食べ残す部分があるそうです。ドングリの胚。
 胚はたいそう苦いので、ネズミの口には合いません。食べ残された胚はどうなるかというと。
 発芽するのだそうです。ドングリは胚だけになっても芽吹きます。ミズナラは丸々と実を太らせますが、実の部分は発芽にあまり関係ないらしい。
 つまりミズナラがドングリの実を太らせるのは、カケスや小動物にふるまうため、ではないかと思われます。

 ミズナラは秋、降り注ぐようにドングリを実らせます。気前のいい大旦那みたいで、
「さぁ寄っとくれ」とでもいうようです。「遠慮なく食べておくれ。今年は豊作だよ」
 ありがたい話で、ミズナラ一本でどれだけの小動物が助かっているかわかりません。しかし、この森の食料庫のようなミズナラにも、確率による計算がある。それこそ、相手の知能の高まで計る冷徹な計算、これがあったればこそ、すすんで鳥や小動物を養っているに違いありません。

 ヤドリギにせよミズナラにせよ、この知恵はいったいどこから来たのでしょうか。
 この「絶妙さ」をもたらした進化の不思議のことなど話しながら、次のポイントにさしかかりました。そこには、進化を理解してもなお残る謎がありました。

 その2 へ